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 風柳と水鏡のお話。

 



茨の間を縫うように駆ける、足音二つ。

耳元で葉擦れの音が途切れることなく響く。

 ガサガサ、ガサガサ。
   ガサガサ、ガサガサ。

少し前を走る彼は、きっと自分と同じように息が上がっているだろう。

少し前を走る彼は、きっと自分と同じように傷だらけだろう。

手足を腕を、胸を頬を、そして首を傷付ける茨の棘は容赦無い。

じわりじわりと熱を感じるが、痛みに昇華せず皮膚に新しい傷を上書きしてゆく。

「水鏡、」

届くか否か分からなかったが、呼吸の合間に彼の名を呼ぶ。

もう限界だと言いたかった言葉は、咽喉が詰まり出てこなかった。

彼が俄か振り返る。運動が得意な彼もその体力は限界に近そうだ。

「あと少し、あと少しなんだ、」

流れるような薄水色の長髪に乗って、彼の透明な声が聞こえる。

それはまるで呪文のようだった。

「風柳、あと少しだから。」

「うん、行くよ。君に、君と一緒に、行きたいんだ。」

緩めたスピードはいつの間にか元に戻っていた。

そう、僕らは逃亡者。この茨の森を抜けるのだ。

足が上がらなくとも、息が出来なくとも、逃げなくてはならない。

今日という日のためだけに、準備を進めてきたのだから。

 ガサガサ、ガサガサ。
  ガサガサ、ガサガサ。

「風柳、見ろよ!あの光!」

歓喜を含んだ声に顔を上げ、視線を彼の奥へと投げた。


 その瞬間、
 
   パァンッ

 乾いた音が茨の森に響き渡る。


一筋の、
 そして噴出するが目の前で交わった。



崩れ落ちる白く細い身体は、逃亡者の終焉を知らせていた。

頭の中が、光でいっぱいになる。

嗚呼、どうして。

どうしてこんな事に。






「風柳!どうしたんだよ、おい!」
「大丈夫?水、持ってこようか?」
ふと意識が覚醒した。
光でいっぱいだと思ったのは間違いらしく、目を開けてみれば闇しか広がっていない。それでもベッドを囲う親友に一筋の光を見た気がした。
「僕、」
「魘されてたぜ。」
先ほど朱に染まった筈の彼が、珍しく心配そうな表情で僕を覗き込んでいる。
その造り物めいている整った顔に、そっと手を伸ばした。
ひやり、と皮膚の感触が指に伝う。
「・・・何だよ。」
「いや、別に、」
―生きている。
「ちょっと夢見が悪かっただけなんだ。御免。」
心臓はまだ早鐘を打っているが、その内落ち着くだろう。
今はただ、彼の頬に触れていたかった。
「だとよ。」
「そっか、良かった。」
「お前の様子がおかしいのに気付いたの、打波なんだぜ。」
感謝しろよな、と付け加えて彼は視線を外し、傍にいる少年へ投げた。
闇夜でも映える青が僕じゃない者を見る。
それが何だか不愉快だ。
打波はいつもの柔らかい表情に安堵を浮かべて僕を見下ろしていた。
「たまたま気付いただけだから。でも何もなくて良かった、」
「御免、打波。有難う。・・・全く、水鏡は何してたのさ。」
醜い感情を押し曲げながら茶化した風を装って、彼の陶磁器のような頬を撫ぜた。


「俺?決まってんだろ、"箱庭"を抜ける準備を進めてたんだよ。」


そう言って彼は唇の端を上げて笑った。

思わず固まった僕を見て、打波が口元を歪めて不気味な笑みを浮かべていた。






嗚呼、どうしてこんな事に?






「あいしてるよ、水鏡。」


何処かで誰かの、声が聞こえる。


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