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 無題

薄暗い森を彷徨って、もう何日になるだろうか。始めの内は渇きを訴えていた喉も今では大人しくなり、何も感じない。それは腹も同様で、今が満腹なのか空腹なのかの判断がつかなかった。それでも自分はこの森を当てもなく歩いている。方位を示す物を持たず、夜になっても朝になっても歩いている。危険極まりない行動だという認識はあったが、それでも足を止めることは出来なかった。いや、足を止めるという選択肢が無かったのだ。当初この森に足を踏み入れた時は、少し感傷に浸ってからすぐに出るつもりだった。それがどうしたことか、誘われるように中へ中へと足を進めてしまったのだ。嗚呼、この道で自分はこう言っただとか、他の者がどうした、とか、まるであの日に戻ったかのように記憶が蘇る。何でもいい、忘れたくなくて入った森だったのに、時を遡ってしまうような感覚に陥るとは思わなかった。身体は血や泥でボロボロだし、足もいうことをきかなくなってきた。体力もそろそろ限界かもしれない。けれど道を歩くのが楽しくて嬉しくて仕方がない。ぼんやりとこの森のどこかで果てるのだろうなと思わないでもなかったが、もうそれすらどうでも良かった。いつか時の果てに独りでこの世を去る事になるのなら、ただの記憶だろうが想い出だろうが最期まで一緒に居たい。それをこの森ならば叶えてくれそうなのだ。何も持たず足を踏み入れて良かったのかもしれない、森の奥に誘い込まれて良かったのかもしれない。
もう少し、もう少し。まだ歩いていたい。
この景色を見ていたい。一緒に居たい。


けれど、終わりにしたい。


遂に折れるように膝をついてその場に崩れ落ちた。幸か不幸か既に身体は感覚が無い為に痛みは感じない。口からは細い息が小さく漏れるが、一定の間隔を伴わない。視界に入る木々と木漏れ日は段々ぼやけてきたし、辺りを伺うと獣の呻き声が四方八方から聞こえてくる。囲まれているな、と思うけれど自分にはもうどうする事も出来ないし、するつもりもない。せめて息絶えてから食えよ、そう時間はかからないからと思って自嘲する。以前ならこんな考え方などしなかった筈で、そう思うと自分は相当弱くなっているらしい。けれどもう全て終わりだ。あの頃とも弱い自分とも、それからこの美しい世界とも。うとうとして寝入る直前のような心地良さと意識が分散する感覚が、自分に終わりを告げている。噂に聞いた走馬灯とやらは見れないらしい、最期の最期でその姿を見たかったというのは我儘が過ぎたようだ。記憶の中のアイツの気配を感じながら終わりを迎える事が出来るのは願ったり叶ったりなのだから、これ以上の望みは無いはずだ。さあもう終わりを告げよう、







おやすみ、と。












「ヒスイ!!」


朦朧とした意識の中、耳に馴染みまくった機械人の声が聞こえた。




そんな気がした。
 

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