このブログはノンフィクションです。
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
たまごのはなし
たとえば、ゆで卵を作るとするだろ?
熱湯に卵を入れて、固まった頃合いを見て取り出す。
当然、熱い。少し水に浸しても、まだ温い。
そっと両手で包みこむと、じわりと手の平に熱が広がって。
まるで体温だ、そう思った。
内から外へ放出される温かさ、似てるだろ。
熱は高い方から低い方へ。
卵の中から、おれの手の平へ。
けど、卵自体が熱を"孕んでる"訳じゃねえ。
"帯びてる"だけだ。
そう、卵なんてただの『命が死んだモノ』でしかない。
「死骸に生の真似事させるなんて、皮肉なもんだよな。」
生きてるものと死んだものの違いなんて、実はそんなにないんだぜ。
「で?卵を食べたくない理由はそれか、船長。」
「いや、他にもある。」
麺類で、『月見~…』ってあるだろ?
うどんだか蕎麦だかの汁へ生卵を落とすやつ。
あれ、結構上手い表現だよな。
椀の世界に、汁の闇。卵がそこから眺める月、ってか。
自分の居る狭い世界を唄ってるみたいだ。
黄身の周りの白身がぼやけて浮かんで、雲みたいで。
一つの命を犠牲にした月だ、潰す前に月見酒と洒落込みたくなるだろ。
「ああ、犠牲になった命は卵か、おれか。わかんねぇけどな。」
絶望の淵を覗き込んだ時、絶望からも見られているとは良く言ったものだ。
「…どうしても食べたくない事だけはよく分かった。」
ペンギンが溜息を吐いてギブアップをする。
ようし、今のところ全勝だな。
そうしておれは満面の笑みを浮かべ、つん、と突いて手元の卵を転がした。
*******
晩御飯は月見蕎麦とゆで卵
卵の賞味期限が明日までだったもんで…